アサちゃんは特別な男友達だった。その昔、私達は同じ会社に同期で入社した。同じ部に配属された同期の男の子達はみんな優しくて良い人ばかりだったのだけれど、全然つまらなかった。そんな中でアサちゃんは唯一、話していて面白いと思える「友達」だった。残念ながら恋愛感情は発生しなかったのだけれど、アサちゃんも私のことは友達だと思っていてくれていたらしく、出張で久しぶりに会うような時には延々と話をしながら二人でご飯を食べたものだった。
アサちゃんは入社から数年後に会社を辞めた。新しい会社を立ち上げるのだ、と意気揚々と語ってくれた。遠くから応援するね、とやっぱり出張の時にご飯を食べながら話したのが最後だった。次に聞こえてきたのは、会社の経営がうまく行ってないらしいという噂だった。どんどん噂は大きくなり、とうとうつぶれたらしい、莫大な借金を抱えたそうだ、行方不明になったと本当かどうかわからない尾ひれがつきエスカレートして、その後アサちゃんの行方を知る人はいなくなった。アサちゃんの実家に所在を聞きに行った人がいたそうだが、結局判らずじまいだったという。
それから数年経って私は同期入社のオットと出会い、結婚した。オットは私とは違う部署だったのだけれど、ひょっとすると知り合いかもしれないと思ってアサちゃんのことを聞いてみた。すると、実は蓋を開けてみるとオットにとってもアサちゃんは特別な友達だったことがわかった。それから私たちは来る日も来る日も、自分たちが知る限りのアサちゃんの話をした。何度も何度も同じ話を繰返した。もう何回話したかわからない話を。
「アサちゃん、今どうしてるだろうね」
「きっとフィリピンの海の上で幸せに海賊をしているよ」
そう言っていつもアサちゃんの話題は終わるのだ。私はこの「アサちゃん海賊説」をひどく気に入っていて、アジアの海に暮らす人々を目にする度にアサちゃんの姿を探した。もちろんアサちゃんの姿はそこにはなかった。そして結婚して10年以上経っているのに、相変わらず私達は同じ話をしては南の海で日焼けしたアサちゃんを思い描くのだった。
そして昨日、いつものように思い出してはアサちゃんの名前を検索してみた。すると、何と何とヒットしたのだ。こんな珍しい名前はアサちゃんの他にはいないはず。 やっぱりこれはアサちゃんだ! 検索を進めるうちに、アサちゃんは大きな会社の社長になっていたことがわかった。サイトに載っていたアサちゃんはあの時と同じちょっと眠そうな目をしていた。写真を見て私達は笑った。
そして、その会社の連絡先に「社長様に転送してください」というメールを出してみた。本当にアサちゃんなら今の苗字と旧姓を書けば私たちが結婚したことにきっと気づいてくれる。オットの苗字も私の旧姓もアサちゃんの名前に負けず変わってるから。この長い時間、アサちゃんはどんな苦労をしただろう。私たちのこと、喜んでくれるかな。妙に緊張しながら送信ボタンを押した。
ほどなくしてアサちゃんから能天気なメールが届いた。メールをオットに転送して、私達はまた笑った。そしてちょっぴり泣いた。
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